この世のすべてのものは「ハンドメイド」である

この世のすべてのものは「ハンドメイド」である  Hidemi Shimura

この世のすべてのものは「ハンドメイド」である  Hidemi Shimura

中国で生活した経験の中で1番私の考え方に影響があったのは、蘇州郊外の工業地帯にある本色美術館で半年間アーティストインレジデンスとして滞在した事だと思います。

当時近所のどローカルな食堂とかによくご飯を食べに行っていて、近くの工場で働いてる若者達、おそらく地方から出稼ぎのような感じで来ている人々をたくさん見かけました。
その時私は美術館で滞在最後に開催する個展に向け、毎日毎日何時間も糸をくるくる巻いてひたすら作品を作っていました。それは孤独な作業でしたが、同時に近所の工場で働いてる人々も同じように毎日毎日単純作業をしているのだなあと思い、親近感を抱きました。
そして、それまで自分が普段使っている物がどこでどのように作られているか、頭ではなんとなく想像した事はあっても、本当は全然理解していなかったのだという事に気付きました。

たとえとても安い値段で売られている工場で大量生産されたものでも、それを作るために手を動かしている人達が大勢いて、安い賃金で働いてたりする訳です。工場労働者の事はニュースなどで見て知ってるつもりになっていたけど、上海にいた時は会う機会も無かったので、なんとなく他人事みたいな感じだったのです。それが蘇州で身近に感じた事により、私たちが普段使っている物はたくさんの人々の手によって作られているのだなあと実感しました。

たとえ、ほとんどが機械で生産されているようなものでも、その機械を作るためには人々の労働力が必要なわけで、そう考えると元を質せばこの世の中のすべてのものはハンドメイドであると言えるのではないか?と私は思いました。そして、自分の暮らしがそんなに多くの人々によって支えられているのだということに気づいた時、突然自分の暮らしがとても豊かなものになったような気がしました。

それ以降、商品の裏側にいる物を作った人のことを考えると「安いものでも大事に使おう」とか「ちょっと高いけどこっちの丁寧に作られている感じのものを買おう」とか思うようになり、ものを買う時に更に考えてから買うようになりました。更に、物を大事にするようになると、たとえ多くのものを持っていなくても満足感を得られるようになるので、「欲のない暮らし」が出来るようになります。

あと、私は以前3DCG制作の仕事をしていたので特に思うのですが、一般的にコンピューターで作られたデジタルなものの価値が軽んじられている感じがしますが、デジタルなものだって手作業で作るものと同じく手間暇をかけて作られているので、私に言わせればあれらも「ハンドメイド」に入ります。
中にはボタンひとつ押せば出来上がるんだろうくらいな感じで勘違いしている人も未だにいるくらいで、日本ではなんとなくデザイナーとかの立場も軽く見られている感じがしますが、自分たちだって立派なものを作っているのだというプロとしての誇りをもっと持って良いと思います。

現代美術作家 シムラヒデミ
主に刺繍糸を素材に作品を制作するアーティスト。大学でファッションデザインを専攻、卒業後3DCG制作の仕事に就く。
2005年より現代美術作家としての活動を開始。デビュー直後にパリで個展を開催する等順調に海外での活動を広げる。2006年より社員旅行をきっかけに好きになった街、上海へ移住。それほど長く住むつもりではなかったものの、リーマンショックによる画廊閉鎖など予想外の展開に翻弄され、7年近く住んでしまう。
2013年12月日本帰国、埼玉県所沢市在住。引き続き現代美術作家として活動。現在、2025年のアーティスト活動20周年の為に作品を作り溜めている。

このブログではアート・文化・歴史に関する考察、自身の活動報告等を投稿しています。
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