異国の地での表現の自由について

異国の地での表現の自由について  Hidemi Shimura

今表現の自由とはなにか?どこまで許されるのか?というのが色々議論されていて、そう言えば私も中国で展示の時に作品のタイトルを変えたことがあったなあと思い出しました。

それは、2010年に蘇州の本色美術館でアーティスト・イン・レジデンスで半年間滞在してた時のことでした。滞在の最後に滞在の成果発表のための展示をしたのですが、ちょうどその頃日中関係が悪かったので(何が原因で悪かったのかはちょっと忘れました…)私の作品のタイトル「サイレント・インベーダー」はまずいから変えたほうが良いかもねーと美術館のスタッフと相談し、個展のタイトルそのものを「蘇州色彩 -Suzou Colors-」と変更しました。そして、作品も全部 Suzou Colors シリーズの中の作品ということにして展示したのです。

サイレント・インベーダーの何が問題かって言うと、インベーダーという言葉はインベーダーゲームのイメージで異星人とかじわじわ忍び寄ってくるものというニュアンスがあると思いますが、中国語に訳す時にうまい言葉がなく、漢字で「寡黙的侵略者」や「沈黙的侵入者」などという訳になってしまい、この日中関係が揉めてる時に日本人が「侵略」とか「侵入」とか付いてる作品を展示しちゃまずいだろうということです。

中国でもギャラリーでは結構過激な作品や政治批判的な作品も展示してたりするので、普段はそれほど気にする必要もなかったので名前も変えずに展示してましたが、美術館はギャラリーよりもパブリックな場だし、私立の美術館であっても地元政府との関係もありますからそれらの点を配慮しての判断でした。

タイトルを変えたとしても作品の形態そのものに変わりはないのだし、作品を見て人々が抱く印象がタイトルの違いによって左右されることはないだろうと私は思うので、変えても全然問題無いと思ったのです。しかし、作品のタイトルを変えるなんて絶対やだ!と思うタイプのアーティストにとっては耐えられないことなのかもしれません。

元々、中国に住んでた時は「一外国人として中国に住ませてもらっているのだから、その国の文化・考え方を尊重するべきである」というのが私の考えで、表現に不自由な部分があり得るのは承知の上で中国で作品発表をしているのだから外国人である私がどうこう言うべきではないし、嫌なら他の国へ行けば良いだけだと思っていました。

しかし、もし同じことが日本で起きたらどうだろうか?と考えてみると、なんで日本人が日本で作品発表するのにそんな制限をされなきゃいけないのか?と思うでしょうし、断固拒否すると思います。

とはいえ、私の作品は特に猥褻でもなければ政治的に危険でもないので、日本でそういう事が起きる可能性は低いと思います。逆に言うと、私の作品に対してもしそういう事が起きたら日本の表現の自由は終わりつつあるな…と思ってまたどこかへ引っ越すことになるでしょう…

異国の地での表現の自由について  Hidemi Shimura
-蘇州色彩 Suzhou Colors- 蘇州の本色美術館にて

現代美術作家 シムラヒデミ
主に刺繍糸を素材に作品を制作するアーティスト。大学でファッションデザインを専攻、卒業後3DCG制作の仕事に就く。
2005年より現代美術作家としての活動を開始。デビュー直後にパリで個展を開催する等順調に海外での活動を広げる。2006年より社員旅行をきっかけに好きになった街、上海へ移住。それほど長く住むつもりではなかったものの、リーマンショックによる画廊閉鎖など予想外の展開に翻弄され、7年近く住んでしまう。
2013年12月日本帰国、埼玉県所沢市在住。引き続き現代美術作家として活動。現在、2025年のアーティスト活動20周年の為に作品を作り溜めている。

このブログではアート・文化・歴史に関する考察、自身の活動報告等を投稿しています。
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