「Art Money」って何だろう?:ある作品購入支援システムについて

「Art Money」って何だろう?:ある作品購入支援システムについて 現代美術, 志村英美, シムラヒデミ, fiberart, contemporaryart Hidemi Shimura

現代美術作家にとして、展示会場にてお客様と直接交流する機会もあり、作品を見に来てくださる方々の行動や話す内容にはいつも興味津々です。

去年、家族旅行で日本に来ていたオーストラリア人女性が作品を購入して下さり、その時に「I’m gonna buy this! I’m gonna use my art money!(この作品買うわ!私のアートマネーを使うわ!)」と叫んでいたので、私は「Art Money って何だ?作品を買うために取ってあるお小遣いとかかな?」と思ったのですが、その後 Art Money という言葉について調べてみて、そういう名前の作品購入支援の仕組みがあるという事を初めて知りました。今回は、その仕組みについて書いてみたいと思います。

Art Moneyとは?

Art Money」は、作品購入を促進するための無利息分割払いプログラムです。主にオーストラリアを中心に利用されており、購入者は作品を10回までの分割払いで購入できます。この仕組みの最大の特徴は、購入者に利息や手数料が一切かからない点です。

では、なぜこのような無利息の仕組みが成り立つのでしょうか?その秘密は、ギャラリーやアーティストが費用を負担していることにあります。具体的には、ギャラリーやアーティストが「Art Money」に一定の手数料を支払うことで、購入者が無利息で分割払いを利用できる仕組みになっています。

注:Art Money は現在、新規の登録者の受付や作品購入を一時的に停止しているとのことです。いずれにせよ、日本では利用できないシステムなので、こういうシステムもあるんだというご参考程度にしてみてください。

仕組みのメリットとリスク

この仕組みは購入者だけでなく、アーティストやギャラリーにもメリットをもたらします。

購入者のメリット

  • 初期費用を抑えて作品を手に入れられる。
  • 高額な作品でも、分割払いなら購入のハードルが下がる。
  • 無利息であるため、経済的なリスクが少ない。

ギャラリー・アーティストのメリット

  • 購入者が金銭的な不安を感じずに作品を購入できるため、売上が増加する可能性がある。
  • 支払いリスクを負わずに、販売時点で全額を受け取れる。

リスクの管理

購入者が分割払いを途中でやめた場合、アーティストやギャラリーに影響はありません。「Art Money」側が回収やリスク管理を担当するため、アーティストやギャラリーは安心して利用できる仕組みです。

日本での導入の可能性

日本では、まだ「Art Money」のようなシステムは一般的ではありません。これは、日本のアート市場では「アートを購入する」という文化が比較的新しいためかもしれません。しかし、最近ではサブスクリプションサービスやオンラインギャラリーの増加など、アートをより身近にする動きが見られます。こうした流れが進めば、「Art Money」のような仕組みが導入される日も遠くないかもしれません。

なぜサービスを一時停止しているのか?私の考察

「Art Money」が新規の登録や購入を一時的に停止している理由について、公式な詳細は公表されていないものの、いくつかの可能性が考えられます。

  1. 経済的要因による影響
    世界的なインフレや金利の上昇が、無利息の分割払いシステムに負担をかけている可能性があります。
  2. 支払いリスクの増加
    購入者の支払い遅延や未払いが増えた場合、キャッシュフローに悪影響が出る可能性があります。これにより、サービスを見直し、リスク管理を強化する必要が生じたのかもしれません。
  3. システムの再構築や事業戦略の見直し
    「Art Money」が成長する中で、より多くの購入者を受け入れるための新たな仕組みを構築する過程にある可能性もあります。一時的な停止は、こうした長期的な戦略の一環かもしれません。

とても良い仕組みなので、システムを見直した上で継続して欲しいと思いますが、やはり「Art Money」側が未払い等のリスクを受け止めるという点で負担が大きかったのかもしれません。

尚、展示を見に来てくださったオーストラリア人女性が言っていた「Art Money」の意味は、日本ではそもそも Art Money は導入されていないので、単純に「作品を購入する為に取ってあるお小遣い」という意味だったと思います。調べてみたら新しい知らなかった作品購入支援のシステムについて知ることが出来たので、それについて書いてみた次第です。

現代美術作家 シムラヒデミ
主に刺繍糸を素材に作品を制作するアーティスト。大学でファッションデザインを専攻、卒業後3DCG制作の仕事に就く。
2005年より現代美術作家としての活動を開始。デビュー直後にパリで個展を開催する等順調に海外での活動を広げる。2006年より社員旅行をきっかけに好きになった街、上海へ移住。それほど長く住むつもりではなかったものの、リーマンショックによる画廊閉鎖など予想外の展開に翻弄され、7年近く住んでしまう。
2013年12月日本帰国、埼玉県所沢市在住。引き続き現代美術作家として活動。現在、2025年のアーティスト活動20周年の為に作品を作り溜めている。

このブログではアート・文化・歴史に関する考察、自身の活動報告等を投稿しています。
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