去年辺りから行動経済学の本が流行っていて、私もいくつか読んでみたのでした。そして、行動経済学は今までアートに関する現象の中で不思議に思っていたことを解明するのに役に立つと気づきました。そこで、しばらく「アートと行動経済学」についての記事を書いてみようと思います。10記事分ほど予定しています。
まずは、「所有効果とアートのサブスクサービスについて」です。アートのサブスクとは、月々決められた額を支払い、多くの候補作品の中から選んだものをレンタルし、自宅やオフィスに飾ることが出来、更に気に入ったものはそのまま購入する事も可能、というサービスです。レンタルされた後に購入される作品も結構あると聞いています。
人は一度手に入れたものを手放すとき、非常に苦痛を感じることがあります。この心理現象は行動経済学でいう所の「所有効果」として知られています。所有効果とは、一度自分のものになったと感じた物に対して所有欲や愛着を抱き、手放すことに対して強い抵抗を感じる傾向のことを指します。私も最近作品の制作と保管スペース確保のため大分物を減らしたのですが、どれを捨てるべきかを検討するのが辛く、物を手放すという行為は非常に脳に負担がかかる行為だと感じました。
実際、ダニエル・カーネマンやリチャード・セイラーといった行動経済学者たちの研究によれば、人々は自分が所有する物に対して、それを他人に売る場合の希望価格を、同じ物を買う場合の希望価格よりも高く設定する傾向があるといいます。
この所有効果は、アートのサブスクサービスにも当てはまると思いました。サービスを利用して、自宅にお気に入りの作品を飾ると、次第にその作品に対して愛着が生まれます。初めは一時的に楽しむつもりだったとしても、その作品が家の一部となり、生活に溶け込むにつれて、所有しているような感覚が強まります。
例えば、リビングに飾った絵画やオフィスのデスクに置いた彫刻は、日常の風景の一部となり、見るたびに心が和む存在となるでしょう。しかし、レンタル期間が終わり、その作品を返却する時が来ると、急にそれがなくなることに強い抵抗を感じるかもしれません。それはまるで、自分の一部を失うような感覚かもしれません。
このような感情的な結びつきが生まれると、多くの人が作品をそのまま手元に残したいと感じるようになります。つまり、アートのサブスクサービスは、所有効果によって最終的に作品の購入を促す力を持っているのです。
アートのサブスクサービスを利用することで、新しい作品を気軽に試すことができるのは確かに魅力的です。そして、その過程で新しいアートに対する見識が広がり、自分の好みが明確になるという利点もあります。まずは、レンタルで色々な作品を試してみて、その中で特に愛着を感じた作品を購入するというのも作品購入の新しい手段として有効だと思います。
私自身「アートのサブスク増えてるけど、どうしてだろう?」と思っていたので、行動経済学を知ったことで納得のいく原因が解明できたと思っています。
そして、普通のブログ記事だと「私の作品はこちらからレンタル出来ます」みたいなリンクが最後に入るのでしょうが、私はまだ現在サブスクサービスは利用していないので、そういうお知らせは特にないのでした…
アートのサブスクサービスを使ってみたいと思った方はgoogleで検索してみて下さい!
次回は「アンカリング効果と価格設定」について書く予定です。
その他のアートと行動経済学に関する記事は https://hidemishimura.com/tag/behavioral-economics/ より是非見てみて下さい。