素材・技法:
ミシン糸(コットン)・和紙・刺繍糸(シルク)・ケント紙・アクリル絵の具・アクリル板と棒・木製パネル
※和紙を何度も何度もミシン糸で縫う。縫った和紙に色水を掛けながらもみ洗いをし、干して乾かす。乾かした和紙を背景に貼り付ける。多数のシルクの刺繍糸をピンと張ったものを追加する。
コンセプト:
この作品は「Boundaries (境界線)」シリーズの中でも特に人間の弱さにフォーカスした作品群の中の一点である。
私がなぜ今回「弱さ」に焦点を当てようと思ったのかというと、最近の私たちをとりまく世界では、強くあること・がむしゃらに頑張る事が良しとされていた気がする。しかし、コロナ禍のおかげで世界中が大変な目にあったが、私たちは実はそれほど強くはないという事に気付くきっかけにもなったのではないだろうか?
これをきっかけに、人の中の弱い部分を当たり前のこととして捉え、お互いを慮ることから新しい強さのようなものが生まれてくる気がする。この糸による作品はその人間が持つ弱さと強さの両面性、これからも永遠に続いていく私たちの歴史を表現している。
人の人生はしばしば川の流れに例えられ、それぞれの人生をたどると一筋の線となる。長い線・短い線・まっすぐな線・くねくねした線、一本一本全く違う線が複雑に重なり合って私たちを取り巻く一つの世界を作って来たのだ。作品中の糸によって生み出された線は、それらの無数の線によって作られる境界線を表している。
ある時にはゆらゆらとたおやかな繊細さ、ある時にはピンと張った力強さ、糸はその使われ方により様々な表情を見せる。私たち人間も時には水に漂う糸のように流れに翻弄され、ある時はまっすぐな糸のように強い意志を持って突き進み、これからの新しい世界を作っていくのであろう。
補足:作品の背景部分には蓄光塗料で文字が描かれており、暗闇で見ると文字が浮かび上がります。これは、人のネガティブな部分は暗闇の中でこそ露になる、という事を表しています。
暗闇で作品を照らすための小さな蛍光灯式ブラックライト照明システムも付属しています。ブラックライト無しでも蓄光塗料の文字は見えますが、ライトを付けるとより作品が美しく見えます。