広州を歩く──歴史、建築、食文化、生活の知恵としての「涼茶」

広州を歩く──歴史、建築、食文化、生活の知恵としての「涼茶」  Hidemi Shimura

作品を展示するためにあまり予備知識のない状態で広州を訪れた私は、広州の歴史や文化を伝える街並みに魅了されました。新しい高層ビルと古い街並みが違和感なく共存しているこの街は、中国の中でも独特のリズムと風格を持っています。私は以前上海に住んでいたので、歴史のある建築物が好きなのですが、広州と上海では街の雰囲気が全然違いました。とくに印象に残ったのは、「騎楼(チーロウ)」と呼ばれる建築様式です。

騎楼とは、1階部分が柱によって歩道側にせり出していて、その上に住宅や店舗が乗っている建物のことで、アーケードのように人々が日差しや雨を避けて歩ける工夫が施されています。清代末期から民国時代にかけて広東一帯で広まり、広州の都市景観の一部となりました。雨が多く、蒸し暑いこの地域の気候に対応した実用性と、海外貿易を通じて取り入れた西洋建築の意匠が融合したもので、機能美と歴史的背景が同居しているように感じます。

私が滞在していたホテルが、上下九歩行街という歩行者天国の通りの中にあり、この騎楼建築の建物に囲まれた中にありました。あいにく滞在中はほとんど毎日雷雨だったのですが、アーケードになっているおかげで雨に濡れずに出かけることができて便利でした。

さらにホテルから歩いて行けるところに、広州でよく知られた観光地である沙面(シャーミエン)島がありました。ここは19世紀半ばのアヘン戦争後に西洋列強の租界として整備された地域で、英仏様式の建物が今も多く残されています。石畳の道と巨大な熱帯植物の不思議なコンビネーションによる街並みはゆったりとしていて、人が多くても静かで、散歩をして回るのにちょうど良いです。

沙面の美しい建築群には今も人々が暮らしており、洗濯物がかけられた窓辺や、小さなベランダに置かれた鉢植えがところどころに見受けられ、観光地でありながら「生活感のある風景」を垣間見ることができでとても興味深いです。長年ここに暮らしてきた老広州(代々広州に暮らしている人々)の人々と、歴史的な景観を残しつつもレストランやカフェなどビジネス向けに改装された洋館など、過去の記憶と現在の生活が交差する、不思議な場所でした。

歴史の中で幾度も外来の文化や政治的力が交差してきた広州には、複雑な記憶が残っています。日本人としてこの街に立つと、特に抗日戦争期の歴史を思わずにはいられません。美しい建物の背景には、そういった歴史が隠されているという事を決して忘れてはいけないのです。

現代の広州は、日々を豊かに生きる人々の活気に満ちています。「食在広州」というように、街中には小さい屋台風のものから大きいレストランまで、とにかく飲食店の数が多いです。広東省は飲茶や海鮮が有名ですが、広州では、それ以外のあらゆる中国各地の料理も食べられます。至る所にフルーツのお店があり、その場で選ぶとカットして容器に入れてくれます。マンゴー、ドラゴンフルーツ、パパイヤなど、豊富なフルーツが日本よりも安く食べられます。
街角にはジューススタンドも多く、野菜や果物のジュースをその場で作ってくれるので、とても健康的です。
また、広東省の朝食の定番は中国式のお粥なのですが、街中にお粥の店も多く、体調が悪い時にもいつでもお粥が食べられるので便利です。

広州を歩く──歴史、建築、食文化、生活の知恵としての「涼茶」  Hidemi Shimura

ある日、「涼茶(リャンチャ)」と呼ばれる小さなお店を通りかかって、とても興味を惹かれました。涼茶は漢方薬を煎じた液体です。涼茶の店舗には「喉の痛みに」「湿気による頭重感に」「ダイエットに」等、30種類くらいの様々な効能が貼られていて、その時の自分に適したものを選ぶことができます。選ぶと暖かい煎じ薬を500mlのペットボトルにその場で詰めてくれます。価格は25元=約500円なので、一般的な煎じ薬の値段と比べても高くはないと思います。
濃く黒い液体で、飲むと薬草独特の香りと苦味が口に広がります。私にとっては好きな味ですが、たぶん苦手な人もいると思います。ペットボトルのラベルには、煎じた人の顔写真も付いていて、どの店舗の誰が煎じたものなのかが分かるようになっています。

広州を歩く──歴史、建築、食文化、生活の知恵としての「涼茶」  Hidemi Shimura

中国南方特有の高温多湿の気候は、「身体に熱がこもりやすい」とされるため、涼茶は季節の変わり目や疲労がたまったとき、また日常のケアとして広く飲まれているそうです。漢方薬を煎じるのは、時間もかかり家で煎じるのは大変なので煎じたものを販売するようになったそうです。涼茶はとてもお勧めなので、日本でも流行るといいなと思います。

中国はとても広くて、写真では同じ感じに見える街でも、実際行ってみるとそれぞれ雰囲気が違うことがあります。あまり予備知識を持たずに訪れた広州でしたが、結果的に広州の歴史や文化について興味を持つとても良いきっかけになりました。今回は雷雨であまり多くの場所には行けなかったので、次回行く機会があれば、今回行けなかった場所を散策してみたいと思います。


現代美術作家 シムラヒデミ
主に刺繍糸を素材に作品を制作するアーティスト。大学でファッションデザインを専攻、卒業後3DCG制作の仕事に就く。
2005年より現代美術作家としての活動を開始。デビュー直後にパリで個展を開催する等順調に海外での活動を広げる。2006年より社員旅行をきっかけに好きになった街、上海へ移住。それほど長く住むつもりではなかったものの、リーマンショックによる画廊閉鎖など予想外の展開に翻弄され、7年近く住んでしまう。
2013年12月日本帰国、埼玉県所沢市在住。引き続き現代美術作家として活動。現在、2025年のアーティスト活動20周年の為に作品を作り溜めている。

このブログではアート・文化・歴史に関する考察、自身の活動報告等を投稿しています。
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