このシリーズが誕生したのは、2018年3月に蘇州にアーティストインレジデンスで滞在中に来たポルトガルでの展示の機会がきっかけで、蘇州滞在時に得たインスピレーションが元になっています。その展示はUrban Diaoguesという10年前から私が参加している世界各地に住むアーティストたちのコラボレーションプロジェクトで、展示のタイトルが「Encontro de Rios -河の集合-」でした。
水をテーマにした作品を作るにあたり、何故か最初に頭に浮かんだのが「水には境界が無い」という言葉でした。そもそも私たちが住む陸地も海も本当は境界線など無いのに、国境・町の境目・隣の家との境目等多くの境界線が設定されています。つまり、無限のものに境界を決めるのが人間であり、人間の歴史とは境界を定めるためのせめぎあいの繰り返しのように思われます。
人の人生もしばしば川の流れに例えられ、それぞれの人生をたどると一筋の線となる。長い線・短い線・まっすぐな線・くねくねした線、一本一本全く違う線が複雑に重なり合って私たちを取り巻く一つの世界を作ってきました。
今回の作品は和紙を何度も何度もミシンで縫ってあり、それぞれの線が人の人生を、重なり合う無数の線により生まれる境界線は私たち人間が長い間培ってきた長い歴史を表現しています。