Memory Engrams -記憶の痕跡- コンセプト

コンセプト
私は上海で拾った猫をずっと飼っていて、とても可愛がっていましたが、去年の11月に亡くなり、深い悲しみに包まれました。しかし、その直後、私は彼女の表情や動き、肌の感触など、細かい部分をはっきりと思い出せない事に気づきました。それは一時的なショックによるものだったようで、数日後、彼女の思い出が少しずつ頭の中に浮かんできたのですが、それはとても断片的で、私は人間の記憶の儚さに気づきました。

“メモリーエングラム “とは、物理的な物質に刷り込まれた認知情報の単位です。私たちの記憶は、脳の奥深くにある神経細胞に記録されており、ある風景や音、匂い、触覚など、第六感への何らかの刺激により思い出されます。

脳についてはまだ未知の部分が多いのですが、脳の中は一つの宇宙に匹敵するとさえ言われています。すべての生物が現実的に物体としてこの世に存在できるのはわずかな期間です。しかし、亡くなった人の記憶が誰かの脳の奥深くに残っている間は、その人はまだ宇宙に存在しているようなものです。

そして、私たちの体はゆっくりと素粒子に分解され、他の物体に生まれ変わります。そしてまた新しい記憶を作り、何度も繰り返される誕生と分解の歴史は永遠に続いていきます。

このシリーズは、記憶を失うことへの恐怖と、愛猫を失ったことで得た気付きを残すために制作しました。

ソフトスカルプチャーのインスタレーション作品は、観客が直接触って柔らかい手触りを楽しめるものになっています。

平面作品は透明アクリル板にペイントしたものとピンと張ったシルクの刺繍糸を何層も重ねたもので出来ています。下の層に描いてあるものは確かにそこにあるのに、無数の糸によって視界を遮られてしまい、うっすらとしか見えません。
作品を見る角度や距離、どこにピントを合わせるかによって見え方が常に変わり、実態をつかむのが難しい作品は、私たちの脳内にはっきり刻まれているのに、中々思い出すことが出来ない記憶の痕跡を表現しています。

思い出はセピア色で表現されることが多いですが、私はカラフルなものとして残したいと思いました。同時に、人生の荘厳さを表現したかったため、この作品では、カラフルでファンシー、且つ神聖で厳かなものを表現する事を目指しました。